はじめに INTRODUCTION
お腹の不調は身近な症状ですが、その原因は食道・胃・腸だけでなく、肝臓・胆のう・膵臓など多岐にわたります。消化器内科は、これら消化・吸収に関わる臓器全般を専門的に診る診療科です。
当院では、逆流性食道炎、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、感染性腸炎(食中毒など)、便秘症、過敏性腸症候群といった一般的な疾患から、潰瘍性大腸炎やクローン病などの指定難病まで幅広く対応しています。
胃がん・大腸がんは、日本人にとって身近ながんであり、生涯でおよそ9〜10人に1人が経験するといわれています。誰にとっても無関係ではなく、早期に発見し、適切に治療することが健康寿命を延ばすことにつながります。
当院では便潜血検査に加えて、胃カメラ・大腸カメラによる内視鏡検査を行っており、必要に応じ定期的な検査をおすすめしています。
また、肝臓の病気も消化器内科の重要な分野のひとつです。かつて多かったB型/C型肝炎は、ワクチンや飲み薬の普及によって、現在は減少傾向にあります。一方で、脂肪肝やアルコール性肝障害は増加しており、生活習慣の改善が重要です。健康診断で肝機能異常を指摘された際には、早めのご相談をおすすめします。
消化器内科の主な症状 MAIN SYMPTOMS OF GASTROENTEROLOGY
- 喉のつかえ、違和感
- 便通障害(便が細くなった)
- 胸やけ、胃酸逆流、胸のつかえ
- 血便
- 胃もたれ、胃部不快感
- 黒色便(タール便)
- 胃痛
- 便潜血陽性
- 腹痛
- 肝機能障害・黄疸
(皮膚が黄色くなった) - 下痢
- 食欲低下
- 便秘、腹満感
- 体重減少
主な疾患 MAIN DISEASES
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸や胃内容物が食道内に逆流し、胃のような防御機能を持たない食道粘膜に炎症を起こす病気です最も多い症状は胸やけで、胸の奥が焼けつくような痛みや不快感が特徴です。食べ過ぎや脂っこい食事の後に起こりやすく、酸っぱい液が上がってきたり、喉の違和感、胸のつかえ感などを伴うこともあります。主な原因は、胃酸分泌量の増加と胃と食道の境目にある下部食道括約筋の機能低下であり、治療は生活習慣の改善と胃酸分泌抑制薬が中心です。治療に難渋する場合もあり、当院では胃・食道粘膜保護薬や漢方薬、それでも効果不良な場合には抗不安薬を少量用いる治療を組み合わせて治療にあたっています。
食道がん
食道がんは、のどから胃までをつなぐ食道の粘膜に発生する悪性腫瘍です。主な原因は飲酒と喫煙で、両方の習慣がある場合は発症リスクがさらに高まります。初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行すると、食べ物のつかえ感、体重減少、胸や背中の痛み、声のかすれなどの症状が現れます。進行が早く、リンパ節や他の臓器に転移しやすいのが特徴です。早期発見・早期治療が重要な疾患であり、喫煙習慣や飲酒習慣がある方は定期検査をお勧めしています。
急性胃炎
食べ過ぎ・飲み過ぎ、アルコールや刺激物の過剰摂取、細菌・ウイルス感染、強いストレス、消炎鎮痛剤や抗菌薬などの副作用によって起こります。肝硬変や腎不全などの慢性疾患が原因となることもあります。主な症状はみぞおちの痛みや胃部不快感で、問診では症状のほか服用中の薬や持病などを確認します。診断には胃カメラ検査を行い、必要に応じて組織検査やピロリ菌検査も実施します。原因に応じた治療により、多くは速やかに改善します。
慢性胃炎(萎縮性胃炎)
慢性胃炎は、数か月から数年にわたり胃粘膜に炎症が持続する状態で、症状が軽くても改善と再発を繰り返すことがあります。主な原因はピロリ菌感染で、長期感染により胃粘膜が萎縮し、胃がんの前段階である萎縮性胃炎に進行することがあります。症状や強さだけでは胃がんなどとの鑑別は困難なため、胃カメラ検査で粘膜を観察し、必要に応じて組織検査を行います。ピロリ菌が陽性であれば、抗生物質を用いた除菌治療で炎症や胃がん発症リスクを減らせます。
当院では、胃カメラ検査やピロリ菌検査に加え、感染が確認された場合の除菌治療も行っています。胃がんは早期発見で治癒が可能なため、慢性的な胃の不調や心配な症状がある場合は、早めの検査と適切な治療が重要です。
胃潰瘍/十二指腸潰瘍
胃・十二指腸の内側の粘膜が傷つき、えぐれた状態をいいます。原因はピロリ菌感染や鎮痛薬の使用が多く、喫煙・飲酒・強いストレス・不規則な生活も関わります。主な症状はみぞおちの痛みや胃部不快感などで、進行すると出血により黒色便や貧血を起こすことがあります。治療は胃酸を抑える薬の内服が中心で、多くは数週間で改善します。再発を防ぐためには原因の除去と生活習慣の見直しが大切です。
胃癌
胃がんは、日本人で多く見られるがんの一つで、年齢的は50歳頃から増加します。初期段階では自覚症状がほとんどなく、進行すると、みぞおちの痛み、食欲不振、体重減少、貧血などが現れます。早期に見つかれば内視鏡による切除など体への負担が少ない治療が可能ですが、進行すると外科手術や化学療法が必要になります。診断には胃カメラ検査が有効で、粘膜を直接観察し、必要に応じて組織を採取して確定診断に至ります。40歳を過ぎたら症状がなくても一度は検査を受け、定期的な内視鏡検査で早期発見につなげましょう。
機能性ディプペプシア
機能性ディスペプシアは食後の胃もたれや不快感、早期飽満感や胃痛が続くにも関わらず、胃カメラ検査やCT検査を行っても原因が特定できない病気です。食後愁訴症候群と心窩部痛症候群に分類されます。胃酸分泌量の増減や胃の運動機能の低下・亢進が考えられストレスとも関連があると言われています。当院では胃酸分泌量を抑える薬と胃の動きを整える薬を中心に治療しており、症状に応じて漢方薬を組み合わせることにより治療にあたっています。
大腸ポリープ
大腸粘膜から発生する隆起性の病変で、大きくなると大腸癌に発達するリスクが高まるため治療対象となります。自覚症状が乏しく、大腸がん検診(便潜血検査)や大腸カメラ検査で発見されることが多いです。高脂肪食の摂取・喫煙・飲酒など生活習慣と関連があると言われていますが、年齢的な要素もあるため40歳以上の方を対象に大腸がん検診(便潜血検査)が行われています。
当院では便潜血検査に加え、鎮静剤を用いた苦痛の少ない大腸カメラ検査も行っております。気になる点などがありましたら、お気軽にご相談ください。
大腸癌
大腸がんは進行度に応じて早期と進行期に分けられます。早期大腸がんは粘膜の浅い層にとどまっている段階で、内視鏡による切除できるケースが多いです。進行大腸がんではがんが深い層に広がり大きくなり、血便や便通異常、体重減少、貧血などの症状が現れます。食生活の欧米化などにより、日本人で特に増加しているがんであり、生活習慣の改善が予防に重要です。また、大腸がんの多くは大腸ポリープから発達するため、大腸ポリープの段階で治療することにより大腸癌の発症を有意に予防できます。40歳を過ぎたら定期的な大腸がん検診(便潜血検査)や大腸カメラ検査を受けることをお勧めしています。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、がんや潰瘍などのあきらかな異常が見られないにもかかわらず、腹痛・下痢・便秘・腹満感などの症状が続く病気です。生命に影響することはありませんが、日常生活の質を大きく下げるため、悩まれる方が多いです。下痢型・便秘型・下痢と便秘を繰り返す交代型に分けられ、緊張や不安、精神的ストレスを契機に悪化することがあります。診断は問診を軸に、血液・便検査や大腸カメラ検査で他疾患を除外して行います。治療は、生活リズムの調整や食事の見直しに加え、整腸剤、腸の動きを整える薬剤、漢方薬などを症状に合わせて組み合わせます。
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患は、腸に炎症が繰り返し起こる病気で、代表的なものに潰瘍性大腸炎とクローン病があります。どちらも下痢や腹痛、血便といった症状が長く続くのが特徴です。日本でも患者数は年々増加しており、生活習慣の変化が背景にあると指摘されています。
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症や潰瘍が広がる病気で、血便や下痢、腹痛が代表的な症状で、症状が強まる「活動期」と落ち着く「寛解期」があります。一方、クローン病は下痢、発熱、体重減少などを伴い、腸の狭窄や瘻孔といった合併症がみられることもあり、外科的治療を必要とするケースもあります。
大腸カメラ検査で診断を確定させてから治療を開始しますが、これまでの5-ASA製剤、ステロイド治療に加え、近年では免疫調整薬・生物学的製剤(抗TNF抗体・抗IL抗体など)・JAK阻害薬といった新しい治療薬が登場し、再燃の予防や長期的な寛解維持が可能になってきています。
肝機能障害
健康診断で肝機能障害を指摘され来院される方は多いです。以前はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが主流でしたが、衛生概念や抗ウイルス薬の普及などにより現在は減少傾向です。しかし、生活習慣病の増加とともに脂肪肝やアルコール性肝障害が増加しており、肝硬変や肝臓がんの合併も危惧されています。
また、頻度は高くありませんが、自己免疫性肝炎や胆汁うっ滞性肝炎(原発性胆汁性胆管炎〈PBC〉、原発性硬化性胆管炎〈PSC〉など) が隠れていることもあります。
当院では、飲酒量・服薬歴・体重変化・併存疾患を伺い、血液検査、腹部超音波を基本に、必要に応じ近隣医療施設と連携してCT、MRCPなどを行い診断しております。